デザイナーは「そもそもこのプロジェクトでは、誰のどのような課題を解決するか」という問い(テーマ)」を考えるところから、実現可能なビジネスにしていくフェーズまで、プロジェクト全体に携わる人なのです。この定義はとても重要です。与えられた課題を解決するだけでは不十分で、課題そのものを設定するところから関わってこそ、本当の意味でのデザイナーと言えます。(本書より)
全く面識はありませんが、本書を手に取ったきっかけは、著者が同じ高校の出身であること。
本書で紹介されている通り、高校を卒業後、日本の大学に入学するも、半年で中退。デザインを学ぶために、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーティンズに入学。海外のデザイン会社やパナソニック等に在籍後、IDEO Tokyoの立ち上げにも携わった経歴を持たれています。
さて、本書で述べられるデザインとは、思考メソッドとしてのデザイン思考。グラフィック・デザインや工業デザイン、建築デザイン等、狭義のデザインの話ではありません。
デザイン思考の手法そのものは他の文献でも語られていることですが、興味深いのは、IDEO在籍時代の損害保険会社や銀行等、様々なプロジェクトの逸話が散りばめられていること。
また、単なる思考メソッドの話には留まらず、グローバルで活躍する著者だからこそ、日本人がいかにデザイン思考にマッチしているか、そして、ビジネス・パーソンとしての生きかたや日本の教育論にまで展開していること。
タイトルの通り、日本愛あふれる内容が展開されていました。
●デザイン思考が重視するもの
前半では、デザイン思考そのものの方法論や手法が述べられますが、紹介される4つのプロセスとは、
1.デザインリサーチ(観察/インタビュー)
2.シンセシス/問いの設定
3.ブレスト&コンセプトづくり
4.プロトタイピング&ストーリーテリング
人の潜在的なニーズを探るのは当然ですが、ビジネスモデルとして、儲かるか?、どんな新しいテクノジーが生まれ、それをどう活用するのか?この3つが融合し、イノベーションが起こる、それがデザイン思考には重要であるとの事。
以前に紹介したエクスポネンシャル思考でも、先進的なテクノロジーを横断的な俯瞰する力が重要であることを紹介しましたが、これからのビジネス・パーソンにとって、新しいテクノロジーを理解することはベーシックな知識や教養として、求められる時代に突入したと言えるでしょう。
●自分の主観に自信を持ち、新時代に求めれる人材とは?
優れたデザイナーになるための条件は、「自分の主観に自信を持っていること」。
本書では、ウォルト・ディズニーのディズニーランド、ジェフ・ベゾスのキンドルが事例として挙げられていました。スティーブ・ジョブスのマッキントッシュやiPod、iPhoneもその類のものと言えるでしょう。イノベーションを果たし、多くの人に支持されるサービスや商品は、たった一人の「自分がほしい!」という強烈な主観からはじまっているということ。
では、謙虚な日本人がそうした主観的な自分の考えにどう自信を持つのか?
本書では、「クリエイティブ・コンフィデンス」ー「自分の創造性に対する自信」 という、IDEOが提唱する概念が紹介され、そのマインド・セットが重要であることが述べられます。
「自分には、周囲の世界を変える力ある」という自信。
「自分にはなにかを生み出し、実行する力がある」という自信。
「自分の考えってイケてるぞ、みんなに聞いてもらおう」と思える自信。
では、その自信を育むためのマインドセットとは何か?
本書では、4つのポイントが紹介されています。そのポイントとは・・詳細は本書をご覧下さい。
クリエイティブでありたいと思うのであれば、クリエイティブな行動を信じ、まずは動いてみましょう。机の上で地図を眺めていても、新大陸は見つからないのですから。
この結節点に立つ人は、まったく異なる価値観や言語を「翻訳」し、両者をつなげることができます。両者のネットワークの情報が常に入る状態になるし、ほかの人が得られない洞察を得ることもできるというわけです。
さらに、本書では、電柱型・鳥居型を目指すべしとのアドバイスがされています。単なる特定分野のスペシャリストから、複数の専門性を持った人材が益々重宝されるということ。新しいアイデアは従来のモノの組み合わせと良く言われますが、その異なる分野が遠ければ遠いほど、新規性の高い、面白いイノベーションが生まれると言えるでしょう。
●今、日本に求められること
本書もタイトルの一部にもなっている「日本人」
そのポテンシャルと今日本に求めれることを最後に紹介しましょう。
数百年前の豊臣秀吉と石田光成の逸話や、青山の和食店まで、日本にはおもてなしの文化が根本的に根付いていること、それは、まさにデザイン思考の重要な要素の一つ、「人間中心」に他ならないとアドバイスしています。
そして、日本人に欠如している点として、パッケージ化とルールメイクが挙げられています。
サーキュラー・エコノミーと式年遷宮の話は、まさに指摘の通りであり、パッケージ化、つまり、普遍的なルールとしてのネーミングやコンセプト化ができなかったばかりに、様々な事象で欧米に出し抜かれているのが今の日本であると言えます。
そして、もう一つのポイントが、ルールメーカー、つまり、ルールをつくり、ゲームの主催者になること。「デザイン思考」や「サーキュラー・デザイン」の元祖がIDEOである様に、元祖になれという指摘。この辺りは、これまでの日本人にとっては、もっとも苦手とするところかも知れません。しかい、こうした現状を打破するには・・・、本書の前半で述べられる、マインドセットが重要なことであると理解する必要があると言えます。
自分で観察し、日常を観察し、文化を観察する。主観を使い、要素を抽出し、構造化する。- デザイン思考を実践する上で身につくスキルは、そのままパッケージ化に活かすことができます。
デザイン思考もパッケージ化も、いまはまだ日本に欠けている視点。でも、ポテンシャルは無尽蔵。日本はまだまだ可能性に満ちあふれていると、ぼくは感じています。
最後に、本書で触れられる、IDEOでの肩書きの話を。
IDEOのメンバーは、総務であれエンジニアであれ、心理学者であれフードサイエンティストであれ、全員の肩書きに「デザイナー」という言葉がついています。デザイナーとは、職種の区分ではない、スタンスの問題なのです。
同郷人のはしくれとして、今後何かご縁がありますように。