意味を感じられる仕事とは、まさに「私」とつながっている「仕事」であり、それが実現したい「世の中」や未来につながっていることである。企業で働く人たちがそうした仕事ができるようになるには、企業自体の「私」(企業)と「仕事」(事業)、そして「世の中」(企業が創りたい未来)が一本につながっていなければならない。(本誌より)
社会課題解決のキーワードとして、ここ数年前からよく耳にする「コレクティブ・インパクト」
持続可能な社会を創る上では、特定の企業やNGO・NPOだけでははく、様々なステークホルダーとの連携が必要であることはすでに浸透していると思いますが、そうした共創、協働とは何が違うのか?今回は、HBR 2019.2で取り上げられたコレクティブ・インパクトの特集の中から、
・コレクティブ・インパクト実践論:慶應義塾大学 特別招聘准教授 井上英之氏
・「コレクティブ・インパクト」を実現する5つの要素:マーク R.クラマー氏、マーク W.フィッツァー氏
の二つの論文より、「コレクティブ・インパクト」とは何かを紹介したいと思います。
●コレクティブ・インパクトとは?
最初にその考え方が世の中に出たのは、マーク・クラマー、ジョン・カニア両氏による、2011年 スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビューでのこと。
ご存知の通り、マーク・クラマー氏は、マイケル・ポーター教授と共に、CSVという概念を提唱していますが、コレクティブ・インパクトを世に出しのと同じ時期、すでに8年前に世の中に問うたキーワードなんですね。
コレクティブ・インパクトの定義は、「異なるセクターから集まった重要なプレーヤーたちのグループが、特定の社会課題の解決のため、共通のアジェンダに対して行うコミットメント」
具体的にイメージするために、コレクティブ・インパクトを手っ取り早く理解する井上准教授の一文を紹介しましょう。
ビッグイシューにとって、ホームレスの人たちに自立はアウトカムであり、その先に目指しているインパクトは、「ホームレスが生まれない、誰にでも居場所のある社会」である。(中略)これは、ビッグイシュー単独では実現できず、企業や行政など他者の協力が必要だ。「コレクティブ・インパクト」が必要となってくる背景である。
●コレクティブ・インパクトの5つの要素
本誌では、コレクティブ・インパクトに取り組む上で、5つの要素が紹介されています。
言うは易し、全てを実現するのは簡単なことではありませんが、取り立てて目新しいことを述べているわけでもないというのが私の印象でした。
1.共通アジェンダ:社会変革を目指すチームは、変化のビジョンを共有し、解決に向けて共同のアプローチを取ること
2.共通の評価システム:チームは、成功の評価・報告方法を定義し、共通の厳選した評価測定項目に合意すること
3.相互に補完し合う活動:多様な利害関係者が相互に補完し合う活動にコミットメントし、各自が最も力を発揮できる分野に集中すること。
4.定期的なコミュニケーション:全てのプレーヤーは、信頼関係の構築や共通目標の調整のために、頻繁かつ構造化されたコミュニケーションに参加すること
5.活動に特化した「支柱」となるサポート:専任の独立したスタッフが必要であること
●世の中の潮流により再浮上したコレクティブ・インパクト
目新しさという観点からは、どうしても腑に落ちない中で、一番響いたのが、本記事冒頭の引用文。前述の井上准教授による「コレクティブ・インパクト実践論」の中の一文となります。
意味を感じられる仕事とは、まさに「私」とつながっている「仕事」であり、それが実現したい「世の中」や未来につながっていることである。企業で働く人たちがそうした仕事ができるようになるには、企業自体の「私」(企業)と「仕事」(事業)、そして「世の中」(企業が創りたい未来)が一本につながっていなければならない。
コレクティブ・インパクトに必要な定義の一つに、「共通アジェンダ」が挙げられますが、これは、社会課題を解決するチームは、ビジョンを共有し、解決に向けて共通のアプローチを取る、ということ。
実現したい「世の中」や未来を目指す、同じ志を持った者同士が、創りたい未来を実現することですが、社会変革は、結局、強力な意思を持つ個々人が起点になると言えるでしょう。
井上准教授は、コレクティブ・インパクトには、ソーシャルイノベーションの二つの大きな系譜が合流していることを挙げています。
その二つの系譜とは、
つまり、8年前に初めて世に提唱されたコレクティブ・インパクトの考え方自体は、目新しいものではありませんが、上記で示される大きな二つの系譜により、その考え方が力強く、世間に再浮上してきたと理解しました。
自己実現欲求が高まり、社会的な価値観の多様化や変化が進む中、自分が実現したいことは何か?それが強く問われ求められているからこそ、コレクティブ・インパクトの取り組みも力強く動き出すと言えるでしょう。
CSVも提唱しているマーク・クラマー氏らしく、該氏の論文は、コレクティブ・インパクト実現には、企業が果たす役割が大きいことが強調される内容でした。その主張は、SDGsとなり、企業の背中を押しているのかもしれません。
社会問題の解決に企業が参加しなければ、株主が期待する成長目標を達成することも、喫緊の対策が求められる世界の社会問題に対処することもできないのである。