「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」 少なくとも西洋諸国においてはそれがメディアでよく聞く話だし、人々に染みついた考え方なのではないか。わたしはこれを「ドラマチックすぎる世界の見方」と呼んでいる。精神衛生上よくないし、そもそも正しくない(本書より)
ファクトフルネスは、ステレオタイプの思い込みは止めて、「事実に基づいた正しいデータをもとに、物事を正確に捉えよう」ということ。
今話題の本の様で、都内の大型書店では大量の書籍が平積みされていることも多く、amazonでの販売も好調の様です。
いかに自分が限られた情報やイメージで物事を判断していたか、先入感や思い込みが判断をする上でいかに障壁となるかを改めて気付かせてくれた本書。
著者自身が世界各国に足を運んだ経験と膨大なデータの裏付けによる説得力に加え、様々な国での共感性の高いエピソードの数々に読み手は引き込まれることでしょう。
著者のハンス・ロスリング氏は、スウェーデン出身で、大学で統計学と医学を学び、医者としてスウェーデンの国境なき医師団を立ち上げ、世界保健機構やユニセフなどのアドバイザーを務めた人物。2012年には、タイム誌が選ぶ世界で最も影響力の大きな100人に選ばれています。
●まずはクイズに答えてみよう!
本書冒頭では、どれだけ世界のことを知っているかが試される全13問のクイズが出題されます。
ここでは、その中から3つのクイズを紹介しましょう。皆さんも考えてみて下さい。
Q1:現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A:20%
B:40%
C:60%
Q2:15歳未満の子供は、現在世界に20億人います。国連の予測によると、2100年に子供の数は約何人になるでしょう?
A:40億人
B:30億人
C:20億人
Q3:世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどの位いるでしょう?
A:20%
B:50%
C:80%
正解は?
↓
↓
↓
全て 「C」
Q1:初等教育の修了は60%
Q2:20億人で子供の数は変わらない
Q3:1歳児の予防接種は80%
皆さんは何問正解しましたか?
きっと世界のこと、地球上で起きていることに無知であったか、固定観念を持っていたかを思い知らされるでしょう。少なくとも私はそうでした。
このクイズは世界14カ国、12,000人を対象にオンラインで出題、本書では、国別の正答率も示されています。
13問目のごく常識的な地球温暖化に関する問題を除く、全12問の平均正答数は、2問。全問正解者はゼロ、全問不正解者は、15%との結果とのこと。日本人の正答率もほとんどが10~20%程度に留まっています。
また、著者は、同時に、様々な国の大学教授や著名な科学者、グローバル企業の役員やノーベル賞受賞者、政界のトップやダボス会議の参加者等、高学歴のエリート層にも同じクイズを出題していますが、いずれもオンラインでの結果と同等程度の回答率だったとの事です。ちなみに私は、12問中、正解は3問でした。
ではなぜ、様々な国の一般人からエリート層までが同じ間違いを犯すのか?
それを紐解くのが本書となります。
●4つの所得レベル
本書全体を通して、その分析の根幹をなすのが4つの所得レベル。
レベル1:1日あたりの所得 2ドル未満 10億人
レベル2:同上、2ドル以上、8ドル未満 30億人
レベル3:同上、8ドル以上、32ドル未満 20億人
レベル4:同上、32ドル以上 10億人全世界70億人を4つの所得レベルに分割すると、それぞれの所得と人口は、上記に分類されます。
この所得分布が本書全体の肝と言えるでしょう。
また、本書では、それぞれの所得層の生活レベルを理解できる様に、水の調達・移動手段・調理方法といった暮らしの画像がマトリックスで示されています。
このマトリックスは、Dollar-Streetというサイトで、様々な条件で直感的な操作でシミュレーションできますので、それぞれの所得レベルをイメージするためにも、是非アクセスしてみて下さい。
●10の思い込みのワナ
本書がこのマトリックスで伝えようとしているのは、日本は豊かでアフリカは貧しい、先進国と途上国といった、思い込みのワナとして提示される一つ目の「分断本能」に陥っていないか?ということ。
例えば、アメリカとメキシコの1日あたりの平均所得は、それぞれ
アメリカ:67ドル
メキシコ:11ドル
この平均所得の数値を見れば、両国には所得格差があり、所得面では一見、分断されている様に感じます。しかし、両国の所得分布をグラフ化すると違った世界が見えてきます。
両国には所得額に重なりがある層が一部存在し、単純に両国の平均所得だけを見て、「分断」されているとは言えないということが理解できます。
ここで著者が警鐘を鳴らすのが、第1章で示される、分断本能 「世界は分断されている」という思い込み というわけです。
その他も含め、本書で示される10の思い込みは以下の通り。
- 分断本能 「世界は分断されている」 という思い込み
- ネガティブ本能 「世界はどんどん悪くなっている」 という思い込み
- 直線本能 「XXXはひたすら増え続ける」 という思い込み
- 恐怖本能 「それほど危険でないことを、恐ろしいと考えしまう」 という思い込み
- 過大視本能 「目の前の数字が重要だと考えてしまう」 という思い込み
- パターン化本能 「ひとつの例が全てに当てはまる」 という思い込み
- 宿命本能 「すべてはあらかじめ決まっている」 という思い込み
- 単純化本能 「世界はひとつの切り口で理解できる」 という思い込み
- 犯人捜し本能 「誰かを攻めれば物事は解決する」 という思い込み
- 焦り本能 「いますぐ手をうたないと大変なことになる」 という思い込み
先程の所得レベルと暮らしのシーンのマトリックスは、6番目のパターン化本能で詳しく解説されています。
Dollar-Streetを見て分かることは、
・国は違っても所得の同じ層には驚くほどの共通点があること
・国は同じでも所得が違えば暮らしぶりも全く異なること
・人々の暮らしぶりに大きな影響を与えているのは、宗教・文化・国ではなく、収入であること
また、54の国があり、10億人が住むアフリカ大陸を「アフリカの国々」、「アフリカの問題」として、一括りにすることがいかに間違った考えであることを指摘しています。
パターン化本能 「ひとつの例が全てに当てはまる」 という思い込みを抑えるための解決策は、分類を疑う こと。
そして、「ドラマチックすぎる世界の見方」が原因としています。
先程挙げた10の思い込み、それを解消するための大まかなルール、そして、「ドラマチックすぎる世界の見方」とは?
詳細は、本書を手にとって確認してみて下さい。
●5つのグローバル・リスク
本書は全体を通して、様々なデータを提示し、世界は良くなっている、世の中捨てたもんじゃないよ といったトーンで私たちに問い掛けますが、本書後半では、著者自身が心配する5つのグローバルでのリスクが挙げられます。
・感染症の世界的な流行
・金融危機
・極度の貧困
最初の3つはこれまでに起きたことがあるし、あとの2つは現在進行中だ。(中略)これらの危機を避けるには、人々が力を合わせて、小さな歩みを重ねるしかない。
それらリスクの解決には、まずは正確な現状を知ること。人が生きる上で必須スキルと言えるでしょう。
単なるドライな分析屋ではない著者、こうしたリスクに対しての対策も私たちにこう呼びかけます。
怖がらなくてもいいとも言えない。でも頭を冷やして世界の人々と力を合わせ、こうしたリスクを減らす手助けをしてほしい。焦り本能を抑えよう。すべてのドラマチックな本能を抑えよう。ドラマチックすぎる世界で現実離れした問題に頭を悩ませる必要はない。本物の問題に着目し、どうしたら解決できるかを考えよう。
●ご本人がTEDで出題してます。
最後に、延べ3,500万回もの再生数を誇るTEDでの著者スピーチの一つを紹介しましょう。
冒頭のテストもTEDのステージで出題してますので、是非ご覧下さい。

著者のハンス・ロスリング氏は、2017年2月に他界されていることを、本書の著者プロフィールで初めて知って胸が熱くなったのは私だけではないはずです。 (TT)