人類は「化石燃料文明」を今世紀中に卒業しようとしている。(江守氏 講演資料より)
約10年振りに訪れた吉祥寺、休日にセミナーに足を運んだ甲斐がありました。
今回は趣向を変えて、セミナー参加記として、期待値を超える内容だった、江守さんの講演のエッセンスを。
国立環境研究所 地球環境研究センター 副センター長で、IPCC報告書の主執筆者でもある江守さん。最近では、テレビでも見掛けることが増えた、言わずと知れた日本を代表する気候変動のエキスパート。
今回の講演タイトルは『「気候危機」は止められるのか?』。
気候変動ではなくて「気候危機」。最近では、Climate Changeは、Climate crisisと言われることも多く、気候変動問題は、その脅威が深刻化し、より切迫した問題と捉え理解するための表れと言えるでしょう。
講演前半は、所謂、産業革命以降の気温や温室効果ガス濃度の上昇や、地球温暖化によるリスク、パリ協定での目標やIPCC「1.5℃」特別報告書やグローバルでのエネルギー源の話。分かりやすい丁寧な解説は、知識の復習として大満足の内容でしたが、講演内容の真骨頂は、後半戦にありました。
その後半戦は、
「脱炭素化」はイヤイヤ努力して達成できる目標ではない
→ 社会の「大転換」が起きる必要がある
のスライドでスタートを切ることになりますが、その「大転換」とは何か?
講演では、「大転換」の事例を「分煙」を例に、社会の常識の変化が起きたこと解説していました。
必ずしも技術革新やイノベーションありきではなく、人々の倫理観や制度の整備等により、大転換が起こるというもの。そのプロセスは、
科学→倫理→制度→経済→技術
であるとしています。
〈分煙と気候変動の大転換プロセス(抜粋)〉
・分煙の倫理観:受動喫煙被害者への配慮
・気候変動の倫理観:将来世代、途上国等の被害者への配慮
↓
・分煙の制度:健康増進法
・気候変動の制度:気候変動枠組条約、パリ協定
社会の大転換と言えば、AI、ロボティクス、5GやIoT等、高度な技術革新を誰もが想像するはずです。もちろん、再エネ発電や蓄電池、スマートグリッド等による技術革新が社会の大転換を後押しする事は間違いないでしょう。
しかし、50年前に今の日本の分煙社会を誰が予測できたか?つまり、倫理感や制度整備により、社会にも「大転換」が起きた、そして、起こせるということです。
そして「気候危機」を止めるために、私たちは、個人として何をすればよいか?
講演の最後に挙げられた7つのポイントは
・関心を持つ。世界で何が起きているかを知る。
・周りの人と話す。発信する。
・無駄なエネルギーは使わない。
・家庭を「エコハウス」にする。
・気候変動対策に積極的な企業を応援する。
・政治家に気候変動対策について質問する。
・地域の気候変動対策に参加する。
政治に関するポイントが一つ挙げられていますが、諸外国とは異なり、気候変動や地球温暖化が全く選挙の争点にはなり得ない日本。この辺りは、アメリカの大統領選を見習いたいものです。
それにしても、多くの若者で活気溢れる吉祥寺の街とは全く異なり、来場者の年齢層の高さが突出していた講演会場。
世界を席巻する気候マーチの主役であり次世代を担う若者たちも、悲しいかな、日本ではまだまだマイノリティの様です。

地球温暖化はどれくらい「怖い」か? ~温暖化リスクの全体像を探る
- 作者:江守 正多,気候シナリオ「実感」プロジェクト影響未来像班
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2012/04/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)