日本の環境NGOは、しばしば石炭火力新設プロジェクトに反対する一方で、原子力発電所の再稼働にも反対するが、石炭火力新設のニーズと原子力発電所の再稼働との相関関係の認識を欠いていると云わざるを得ない。環境大臣も環境アセスメントを通じて石炭火力新設プロジェクトに物言いをつけているが、それならば地球温暖化防止責任官庁として原子力発電所の再稼働の必要性をもっと国民に訴えるべきではないか。
パリ協定で合意された約束を守り、地球温暖化問題を解決するためには?
今回紹介するのは、過去のCOP(気候変動枠組条約締約国会議)に10回以上参加のキャリアを持ち、環境・エネルギー分野のスペシャリストである著者の一冊。
●本書の構成
本書全体の構成は、全12章。前半は、2015年のパリ協定(COP21)合意の背景や、合意に至るプロセス、何が決められて、合意事項に対して著者なりの評価が述べられています。
先進国も途上国も全ての国の合意が得られ、日本の長期目標は、2013年比で2030年のCO2削減目標が26%等、こうした概略から、より一層理解を深めたいと思っている人には最適な一冊となるでしょう。
京都議定書の採択から約20年、コペンハーゲンの失敗を踏まえて、パリに引き継がれ成功に導いたフランス政府の意地やソフトパワーがあったこと、また、パリ協定の主な条文の対訳等、COP21を一般のビジネスパーソンにも分かりやすく解説しています。
そして、本書後半はその合意事項を実現するための解決策や求められる長期目標設定の立て方、そして、炭素税への私見が展開されています。
●そもそも「精神論」とは?
著者が述べる、地球温暖化問題の解決策紹介の前に、本書タイトルのキーワード「精神論」とは何か?
コトバンクによれば、
①物質的なものよりも精神的なものに重きを置く立場の考えや論。
②俗に、精神を強調しすぎて現実離れする考え方を揶揄(やゆ)していう。精神主義。
また、あるWebでは、
精神論は、これまでの自分の経験や「頑張ればできる」という考え方に固執していることが特徴です。
との記述もありました。
では、著者が考える、温暖化対策を進めるための解決策は何か?
それは、原子力発電の再稼働・継続運転と新設、そしてイノベーション環境の整備。
CO2排出削減のためには、CO2排出量が少ない原子力発電の稼働が必須であること。EU各国の様に、系統が接続されていない日本で、再生可能エネルギーに頼るのは今のインフラや環境では非現実的であり、低コストの電力供給ということでは、火力発電の稼働もやむなしというもの。
今の技術やエネルギー環境に照らし合わせれば、確かにそれも一理あるかも知れませんが・・。
●温暖化対策に求められるムーンショットとライフスタイルの変革
解決策の一つとして挙げられる原子力発電の推進も、グローバルの潮流、国内の世論等、再稼働や新設が簡単ではないことを著者自身も理解し、COP21の目標達成のための様々なシナリオを挙げています。
しかし、全体を通して感じたのは、その考え方が積み上げ式であり、野心的、革新的な考え方が欠如していること。
著者に言わせれば、そうした考え方がまさに精神主義で青臭いという事でしょうが、こうした状況だからこそ、ケネディ大統領の様な、アポロ計画の際のムーンショットが求められるのではないでしょうか?
以前の記事、シンギュラリティ大学によるMTP(野心的な革新目標)も思い出されます。
希望の光は、本書後半で挙げられる、次世代の水素発電や太陽光発電技術、CO2の分離・回収や、AI、ビッグデータ、IoTを活用したエネルギーシステムのネットワーク化や電力変換の際のロス削減や新しいセンシングの技術等。
さらに、そうした革新的な技術開発への予算確保や国際連携の必要性に加え、こうした技術の社会への実装と平行し、社会システムやライフスタイルの変革も求められていることに言及しています。
社会システムやライフスタイル分野での定量的・定性的目標
エネルギー政策と併せて、今後、日本がどんな国を目指すのかを考える上で、重要な論点になりそうです。
エネルギー政策の考えには賛同できませんが、COP21を知り、地球温暖化対策、エネルギー政策のシナリオの一つを考える上で読み応えのある一冊でした。