研究は最初に問いを立てることから始まります。(中略)問いを立てることは、いちばん難しいかもしれません。なぜなら、問いの解き方は教えることができても、問いの立て方は教えることができないからです。しかも、誰も立てたことのない問いに、まだ答えのない問いを立てるには、生き方もセンスも問われます。
上野千鶴子さんと言えば、テレビの情報番組でも最近取り上げられた東京大学 入学式での従祝辞。
本の執筆者として初めて知ったのは、この本。読んだことはありませんが、発売当時(1989年)は話題となり、ベストセラーととなりました。

スカートの下の劇場: ひとはどうしてパンティにこだわるのか (河出文庫 う 3-1)
- 作者: 上野千鶴子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2019/05/01
- メディア: 文庫
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そして、今回紹介する一冊は、「情報生産者になる」。
新書にも関わらず、参考文献まで含めると380ページ以上のずっしりとした見た目の厚さ同様、研究論文執筆のためのノウハウがきっしりと詰まった一冊でした。
様々なビジネス書を読んでいつも感じるのは、お手軽に作られた書籍程、内容が冗長でこの内容であれば、もっと簡潔かつシンプルにページ数を抑えることが出来たのではと度々感じること。しかし、この本は、これまで長年蓄積された経験のノウハウも余すことなく伝えるには、このページ数が必要だったと思える内容でした。
●普遍的な調査レポート作成に通じるノウハウ
一般的なビジネスパーソン向けというよりは、研究者向けでは・・とタイトルと内容に違和感を感じながらも、読み進めましたが、まさにその内容は、情報を収集し、論文としてのアウトプットの体裁まで、その内容を惜しみなく開示していること。
本書のタイトルを「情報生産者になる」にしてよかった、と思います。「研究者になるには」とか、「論文の書き方」でもよかったかもしれませんが、本書はそれより広い情報発信者になるためのノウハウを網羅しているからです。
インタビューの方法から、定性情報・定量情報の分析やまとめ方まで、大いに参考になる内容でした。
特に参考になったのは、「質的情報の分析」の箇所。この情報加工を
(1)いったん情報を脱文脈化したあとに:カテゴリー化、メタ情報化
(2)再文脈化するというプロセス:マッピング、チャート化、ストーリーテリング
として整理しています。
質的情報の収集・分析に関して語られるⅣ章、おススメです。
●問いを立てる
そして、一番の収穫は、研究者の論文執筆には、なによりも問いを立てる事の重要性を学べたこと。クライアントからの依頼により、調査レポートをまとめる機会はこれまで数多くありましたが、その内容は、何を目的として何の調査からのお題が与えられたものであるわけですが・・
情報を生産するには問いを立てることが、いちばん肝心です。それも、誰も立てたことのない問いを立てることです。適切な問いが立ったとき、研究の成功は半ばまで約束されているといっても過言ではありません。問いを立てるとは、現実をどんなふうに切り取って見せるかという、切り込みの鋭さと切り口の鮮やかさを言います。
本書で「問いを立てる」というのは、問題意識、ノイズをキャッチするセンスの事と述べられていますが、まさに今ビジネスの世界でも問われる、課題発見のスキル。
つまり、例えお題が与えられていたとしても、そこで思考停止には陥らず、クライアントからの依頼でも、当事者意識と問題意識を持つということ。
以前に紹介した山口周さんのニュータイプの時代では、オールドタイプとニュータイプの思考や行動の対比がまとめられていますが、オールドタイプは、正解を探して、ニュータイプは、問題を探すというもの。
本書で紹介される具体的な問いの立て方の事例は以下の通り。
人生に生きる意味はあるか?
→どんな時に人は生きる意味を感じるか?
女性の本質は母性である
→いつの時代から女性の本質は母性だと考えられるようになったか?
→女性の本質を母性と考える人々はどんな人か?
本書の大半を占めるのは、論文や報告書として情報をアウトプットする時に具体的なノウハウ。では、そのテーマに何を選び、どう問いを立てるのか?
今、企業経営で問われるパーパス、そのパーソナル版として、どう問題意識を持ち、何を課題とするのが、その生き方とセンスが問われる、そんな内容でした。
ロングセラーとして読み継がれる一冊となるでしょう。