行動に始まって、体感・実感によって知識の受け入れ素地を築いた後は、自分の失敗体験だけでなく、他人の失敗体験を仮想失敗体験として吸収し、さらには学習した知識などを次々吸収して蓄えていきます。その中で、最終的には真の理解へといたるのが、創造力要請のための理想的プロセスです。
前回に続いて、「失敗学のすすめ」ブックレビュー後編。
長年読み継がれるロングセラーだけあって、学ぶべき箇所が多くレビュー箇所の絞り込みに苦労しました。
ブログコンテンツを通して伝えることが出来ているのは、本書の中のほんのわずかなエッセンスとなりますので、是非、本書を手にとって、自分なりの学びを見つけて下さい。
●失敗は予測できる
大きな失敗が発生する時には、必ず予兆となる現象が現れるとの事。「災害防止の祖父」と呼ばれる、ハインリッヒの法則によれば、
「一つの大きな大失敗」には、
→ 現象として認識できる失敗が約30存在する
→ さらにその裏には「まずい」と感じた失敗とは呼べない現象が300存在する
というもの。
っまり、失敗とは呼べない「まずい」と思ったときに何らかの対応をすれば、大きな失敗を未然に防げるということ。
しっかりとしたアンテナを張り巡らせれば、必ず失敗の予兆を認識できるし、それに対して適切な対応をとれば、大きな失敗の発生を防ぐことも十分に可能です。理屈として考えれば、これほど簡単な失敗回避の対策はありません。しかし、現実には、こうした失敗の予兆は放置されることがほとんどです。なぜなら失敗は、「忌み嫌うもの」であり、できれば「見たくない」という意識が人々の中にあるからです。
失敗は「忌み嫌うもの」の箇所ですが、第三章には、失敗情報は伝わりにくく、時間が経つと衰退すると述べられていますが、以下要因によるものと指摘しています。
・失敗情報は隠れたがる
・失敗情報は単純化したがる
・失敗情報は変わりたがる
・失敗情報は神話化しやすい
・失敗情報はローカル化しやすい
・客観的失敗情報は役に立たない
・失敗は知識化しなければ伝わらない
詳細は本書をご確認下さい。
●失敗を創造に活かす
本書では失敗を構造化、可視化し、失敗の回避方法までが述べられていることに加え、失敗から学び、それを創造性に活かすことの方法論の提言があることでしょう。
まず最初に述べられるのは、創造とは、何の関連性もないバラバラで孤立したアイデアの種を結びつけ、脈絡を持たせる作業が思考の中で最も大事というもの。
失敗は成功のもと、失敗は成功の母と言われますが、誰も失敗はしたくないし、出来れば避けたいもの。つまり、失敗体験は「必要最小限に抑える」のが、失敗との上手な付き合い方。では、創造に活かすにはどうすれば良いか?
一つ目に挙げられるのが「仮想失敗体験」。
それは、すでに習得した知識を活用し、いかにも失敗を体験しているかの様にシミュレーションすること。著者はある身体的に痛みを伴う自らの体験を大学の授業で学生に伝えている様ですが、つまり、他人の失敗体験でも自分事として捉えることが出来れば、その痛みやリスクを自分が失敗を体験した事の感じることが出来るというものでした。
二つ目が「全体の理解」。研究開発でもイベントの企画でもまずは行動し、最初から最後まで全てのプロセスに関わる機会を持つ事としています。
真の(科学的)理解というのは、方程式が解けるとか、法則をやみくもに覚えているというものではなく、ある現象の因果関係がきちんと理解できる状態をいいます。しかも、蓄えられた知識を、自分で自由に使えなければなりません。
本書での興味深いエピソードは、伝統技術による製法による製鉄や日本刀づくりの職人も、その仕事に携わりながら、本当のベテランでありプロは、最新の治金学の知識も身につけているというもの。
全体の理解というのは、単の仕事の時間軸のプロセスだけではなく、その仕事やテクニカル面での深度をも理解しなければ失敗を創造に活かすことはできないということこと。深いです。
最後に、あとがきによれば、前著での実績をきっかけとして、ある勉強会で講演の依頼があり、その勉強会に講談社の編集者が参加して、講演内容が非常に面白かったため、著者に出版の相談があったのが、本書出版のきっかけ。
そして、その勉強会を主宰していたのは、日本が世界に誇るクリエーターの一人、宮崎駿氏との事。
宮崎駿氏がヒントを得た「失敗からの創造性」、なんだったのでしょう? ご存じのジブリファンの方、教えて下さい。

- 作者: 畑村洋太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/04/15
- メディア: 文庫
- 購入: 30人 クリック: 182回
- この商品を含むブログ (167件) を見る