わたしのこの本を読んで、事象に触れたら調べてみよう、そして生じた心象について自分も書いてみよう、と思った人がいたら、まずは自分が読んでおもしろいと思えるものを書いてみてほしい。自分が何度も読んで、過不足なく、なにかが書けたと思ったら、ぜひどこかに発表してほしい。いまは、ネット上に自分の文章を載せるスペースは無限にある。
タイトルと糸井重里さんの帯に興味を持ってamazonで購入した本書。届いて本書を見て、文字フォントと余白の大きさに驚きながらも、あっという間に読了。
副題に、「人生が変わるシンプルな文章術」とありますが、一般的に想像できる文章を書くためのテクニックに関する内容はほんとんど含まれないのが、本書の最大の特徴と言えるでしょう。
電通で長年コピーライターを務めた後、2016年にフリーランスのライターとして執筆活動を開始、本書が初の著書との事。某党の様に、述べられることはワン・テーマ。
読みたいことを書けばいい・・という割には、読者へのサービス精神溢れる内容の一冊でした。
●書くことWHY
本書の主題は、タイトルの通り、「自分が読みたいと思うことを書いて、発表の場を作れ」ということ。なにを書くのか、だれに書くのか。どう書くのか、なぜ書くのか の4章で構成されますが、一貫して述べられるのは、自分のために書くということ。
冒頭に書いた通り、世の中によくある文書の書き方や作法に関する本ではありませんので、タイトルには偽りあり、しかし、それを補って有り余るほどの、なぜ書くか?書くことへの本質に触れた内容でした。
伝えていることはその一つだけ。書面のフォントサイズや余白と併せて、How toモノとして得るところは限られますが、読者への残す記憶ということでは、インパクト大の一冊でした。
●貨幣価値と言語
書くことの本質に触れる本書。その中でも最もピンときたのは、第4章 なぜ書くのか で展開される、貨幣と言語の機能のこと。
貨幣の価値は、以下3点を挙げた上で、
・決済手段(支払手段)としての機能
・価値尺度としての機能
・価値貯蓄手段としての機能
貨幣と言語は、同じ機能を果たしていることが展開されます。
大切なことは、経済も、言葉も、ゼロサムゲームではないということだ。先ほど「価値を手に入れたいとき、人は犠牲を払う」と書いたが、等価で交換できると踏むから、経済では「おかね」を払い、コミュニケーションのやり取りでは、相手も役立てることができる「ことば」を相手に返すことになる。
言葉とは、相手の利益になる使い方をすれば、相手の持ち物も増え、自分の持ち物も増える道具なのだ。書いたら減るのではない。増えるのである。
amazonでも、両極端なレビューが散見される本書。誰からも手放しで称賛されるよりも、書きたいこと、伝えたいことを自由に表現した一冊、ここのところ、毎週ブックレビューをアップしている身として、共感できる一冊でした。
自分が読みたくて、自分のために調べる。それを書き記すことが人生をおもしろくしてくれるし、自分の思い込みから解放してくれる。何も知らずに生まれてきた中で、わかる、学ぶということ以上の幸せなんてないと、わたしは思う。